御手洗さんはクラスの便器

第八話 便器の思い、そして女の子のオシッコ

 雑巾を使って、その顔面を丁寧に拭き上げられる。そして、親友を穢したしようの精液をすべて拭い終えたむつは、予想外の出来事に驚いた。不意に、菜乃の表情が崩れ、目からは一筋の涙があふれ出たためだ。

「ど、どうしたの、菜乃ちゃん? もしかして、痛かった?」

 慌てふためきながら、オロオロといった感じで問いただす睦美。だが、それに対して、菜乃ははっきりと首を横に振った。

「ううん、違うの……」

 なおも涙を流しながら、鼻まですすり始めた菜乃。だが、その声はしっかりとしたものだ。

「ううん、そうじゃなくって……、なんだか急に……」

 そこまで言った菜乃は、不意にその表情を変えた。全頭マスク越しでわかりにくかったものの、それは穏やかな微笑みだった。

「あぁ、やっぱり、私って……、便器なんだなぁ……って」

 泣いているのに笑顔。笑っているのに涙を流している。そのアンビバレントな表情は、菜乃の心の中で、様々な思いが入り交じっていることを表していた。

「そして、とうくんのオシッコをちゃんと飲むことができたから……」

 そこまで言った菜乃は、その表情をさらに明るくさせた。

「ちゃんと便器になれた気がして……、なんだか、嬉しくって……」

 菜乃は感涙にむせっていたのだ。そしてそれは、驚くべき心情の変化だっただろう。なにしろ、こんな状況は、普通に考えてあり得ないことなのだ。少女のことを、教師から親友、思い人の少年、そして他の生徒たちまでもが、便器として扱っているのだから。

 だが、もはや菜乃は、自らが便器であるという、この異常な状況を完全に受け入れていた。そしてそこには、しっかりと自らの意志が存在しており、今までのように、頭の中にモヤがかかったような感じはまったくなかった。思考もはっきりとしているし、それを言葉として発することもできた。その上で、その与えられた役目を果たせたことに、純粋な喜びまでをも感じていたのだ。

「武藤くん。私のこと、便器として使ってくれて、ありがとう。私……、私……」

 止めどもなくあふれ出る涙が、白いラテックスに覆われた菜乃の顔面を濡らしていく。悲しいわけではない。だが、彼女自身にも、どうしても、とめることができずにいた。

「私……、一番はじめに便器として使ってくれたのが、大好きな翔太くんで……、ホントによかった……。ホントに……、ホントに……」

 こみ上げてくる思いに、後は言葉にならない。そして、かつての呼び方が思わず出てしまったが、それも致し方なかったのかもしれない。本人の自覚があったかどうかはわからないものの、それは愛の告白に他ならなかったのだから……。

 だが、そのことに、当の翔太は気づかない。まだ、そういう色恋を意識するほど精神的成長を遂げていなかったためなのか、それともただ単純に鈍感だったためなのか。それはわからないが、相変わらず、ぶっきらぼうに「ああ」と答えただけだった。

 一方、そんな朴念仁と異なり、睦美はその言葉の意味するところを、敏感に察知していた。そして、血相を変えてなにかを言おうとした彼女だったが、その矢先、菜乃に機先を制されてしまう。

「それに、睦美ちゃんも、便器の私なんかのために、一生懸命お世話してくれて……」

 そして、親友の方へ、改めて向き直ると、心からこう言った。

「汚れた私……、便器なんかのために、雑巾で拭いてくれて、ホントにありがとう……。私、幼なじみの……、親友の睦美ちゃんがお世話してくれて、嬉しい……」

「やだなぁ、菜乃ちゃん。だって、私は便器係だし……、なにより、私だって、菜乃ちゃんのことは親友だと思ってるんだから……。菜乃ちゃんのためだったら、どんなに汚くったって、どんなお世話だって、全然平気だよ。まかせてっ!」

 そう言い切った睦美を見て、菜乃はふたたび、にっこりと笑顔を見せた。そして、そんな微笑ましいやりとりを、同じようににこやかな表情で見ていたゆうが、声をかけた。

らいさんったら、最初は戸惑っていたようだけど、ようやく慣れてきたみたいね。なんだか、表情も変わってきたみたい……。今までと違って、立派な便器の顔つきになってきたわ」

 それは、従来同様、常識的には考えられない発言だったに違いない。だが、女性教師としては、ごくごく当たり前のことを言っているだけ……、それどころか、教え子のことを褒めているだけなのだ。そして、今の菜乃にとっては、まさにそのとおりに違いなかった。

「だから、泣くのはやめて……、ほら、笑って、笑って……」

 優しげな教師の言葉に、菜乃はふたたび笑顔を見せた。そして、涙を拭うべく、便器装束に包まれた自らの右手を、顔面に近づけていったが……。

「菜乃ちゃん、ストップ、ストップ! 菜乃ちゃんは便器なんだから、そんなことしなくっていいから。便器係の私が、ちゃんとやってあげるから」

 翔太が言った時には文句を言ったくせに、自分では「私」と単数で言い切った睦美は、ふたたび便器用雑巾を菜乃の顔にあてがった。そして、丁寧に涙を拭い始める。

「ありがとう、睦美ちゃん……」

 精液が染みこんだ、そんな布をゴシゴシとこすりつけられても、菜乃は文句も言わない。それどころか、心底嬉しそうな表情を見せた。

「うふふ……。やっぱり、かわいい御手洗さんには、笑顔が一番よ。みんなも、クラスの便器は、泣いてるよりも、笑ってる方がいいわよね?」

 その問いに、生徒のあちらこちらから賛同の声が上がった。そして、そんな声を聞きながら、菜乃は思った。こんなに自分のことを思ってくれる、このクラスの便器で、本当によかったと……。

「さあ、お顔もキレイになったみたいだし……」

 便器と便器係という二人の少女を、微笑ましそうに見ていた優花だったが、菜乃の涙を拭い終えたのを見て、そう言った。そして、軽く手を叩きながら続ける。

「はーい、注目!」

 生徒たちの視線が自分に集まったことを確認した優花は、改めて教師らしい声で告げた。

「それじゃあ、次に、女の子が御手洗さんを使う場合……、つまりは大便器として使う時なんだけど……」

 そこで、いったん言葉を切る優花。そして、教え子たちがきちんと聞いていることを確かめた後、さらに話を続ける。

「女の子の場合は、オシッコの時も大便器を使いますから……、まずはオシッコのやり方のお手本を見せてもらいます……。じゃあ、うえさん、よろしくね」

「まかせて、先生」

 相変わらず、フランクな物言いの睦美。だが、とあることに気づいた彼女は、翔太の方へ向き返ると、こう言った。

「ちょっと、武藤。はやく、トイレから出なさいよ。私が入れないじゃない」

 未だ、下半身をさらけ出したまま、白いタイルの上で突っ立ったままの翔太に、その位置を明け渡すように要求する。そして、その言葉に、慌ててボクサーブリーフと学生ズボンを引き上げた彼は、クラスのトイレから退出した。

「じゃあ、次は私の番ね。菜乃ちゃん、よろしく」

 睦美のそんな言い方は、ごくごく自然なもの。親友に対して発せられた、至極普通の言葉に聞こえる。だが、これから行われることは、やはり普通のことではないのだ。

 だが、菜乃はもはや、この状況を完全に受け入れていた。であるならば、幼なじみの少女に対して、次のように返すのは自然なことだっただろう。

「私の方こそ、よろしくね。初めてだから、うまくできなかったら、ゴメン……」

「だいじょぶ、だいじょぶ。私も初めてだからさ……。でも、一番こそ武藤に取られたけど、女の子としては、初めて菜乃ちゃんのことを便器として使えるだなんて、私、嬉しいよ」

「私も……。睦美ちゃんに便器として使ってもらえるなんて、嬉しいな」

 そして、お互いににっこりと微笑み合う二人。そんな彼女たちを、同じように微笑ましげに見ていた優花だったが、さすがにいつまでも先に進まないわけにもいかない。そして、睦美へと軽く促す。

「さあさあ、植野さん。みんなが待ってるわ。お手本、見せてくれるかしら」

 その言葉に、頷いた睦美は、改めてクラスのトイレの中で、菜乃と対峙した。

「菜乃ちゃん。私、オシッコしたいから、大便器になってね」

「はーい、ふたたび注目。男の子がオシッコする時にも言ったけど、女の子も、なにがしたいからなにになってって、きちんと伝えてあげてね。そうすれば、御手洗さんも対応しやすいからね」

 その言葉に、教室中から返事が返ってきたことに、満足げな表情の優花。そして、睦美に、先を促した。

「それじゃあ、続けて。植野さん」

 そして、その言葉を受けた睦美は、やにわに、手にはめた掃除用手袋をバケツへと放り入れた。さらには、車ひだスカートのホックを外すと、その下にあるファスナーも降ろしてしまう。そして、完全に脱ぎさってしまった。

 当然、そんなことをすれば、睦美の穿いているショーツが露わとなってしまう。彼女が穿いていたのは、臍丈ほどもあるグレーのもので、幅広の腰ゴム部分に「ACTIVE GIRL」という黒い文字がプリントされているものだった。それは、睦美の性格に合っているとも思えるデザインだったが、そんなショーツも、なんの躊躇も見せずに脱いでしまう。

 今や、翔太の時と同様、睦美はその下半身を衆目にさらしていた。オシッコをするのだから当然……、とも言えるのだが、それでも、教室の中でクラスメイトたちにそんな姿を見せるのは、本来であればあり得ない。だが、本人はもちろんのこと、教師も、そして級友たちも、だれも不思議に思っていないことは明らかだ。

「女の子がオシッコをする場合……、つまりは御手洗さんを大便器として使う場合だけど……」

 睦美の姿を確認した後、そこまで言った優花だったが、ふとなにかを思い出したかのように、言葉を切った。だが、それも一瞬だけのこと。すぐに話を続ける。

「……言い忘れていたけれど、御手洗さんは、一般の便器と違って、ちょっと特殊だから、大便器になってもらっても、オシッコとウンチを一緒にすることはできません。それは、後で詳しく説明するけれど……。ともかく、女の子がオシッコをする時は、最低限でもスカートを大きくまくり上げて、パンツを膝まで……、できればくるぶしまで降ろしてね。でも、御手洗さんを使って、女の子がオシッコをするのはちょっと難しいの。だから、今の植野さんみたいに、スカートもパンツも、全部脱いでしまった方がいいと思うわ。そして、割れ目を御手洗さんの顔の前に出してあげてね……」

 そんな言葉を聞きながら、菜乃は、自らの体勢を変えていた。小便器の時は膝立ちだったそれが、正座へと移っていたのだ。そして、教師の言葉通りに、自らの眼前に差し出された睦美のあそこを見て、驚きを隠せなかった。

「む、睦美ちゃん……、もう……」

「へへっ……、なんだか、ちょっと恥ずかしいな……」

 菜乃の目の前に、睦美の割れ目が、あけすけもなくさらされていた。そして、それはもちろん、基本的には菜乃自身のものと変わらなかったのだが、ある一点だけが大きく異なっていた。

 睦美は、すでに発毛していたのだ。とはいえ、スリットの上端部分に、微かにけぶるように、柔毛が生えているだけ。だが、それでも、自分にはまだ芽生えていない、そんな大人の象徴が、親友にはもう萌え出ていることに、菜乃は、別の意味でのショックを感じてしまう。

 そして、無言のまま、その部分をじっと見つめてしまう菜乃。それは、無意識の行動だったが、睦美にとってはやはり恥ずかしい。いくら、その部分をさらすこと自体に、羞恥を感じないとしてもだ。

「もう、菜乃ちゃんたら。そんないつまでも……、もう、いいでしょ?」

「ご、ゴメン、睦美ちゃん……」

 菜乃自身も、そんな不躾な行為をしてしまったことに気がついたのだろう。少しバツの悪さを感じながら、ささやくように謝った。

「ううん、いいの、いいの。それじゃあ、菜乃ちゃん……、オシッコ、お願いね」

 そんな言葉とともに、睦美は自らの割れ目を、さらに一層、菜乃の顔へと近づけていく。同様に、その様を見つめていた菜乃自身も、自らの顔を、親友のそこへと寄せていった。そして、そんな双方からの動きのため、遂に菜乃の唇は、睦美の割れ目へと押しつけられてしまう。

「はーい、みなさん。これが、女の子がオシッコをするために、御手洗さんを大便器として使うための、正しい方法です。ここまで来れば、後はオシッコをするだけ……」

 そこでいったん言葉を句切った優花は、睦美へと振り返り、こう言った。

「植野さん。もう、オシッコしちゃっていいわよ。結構、我慢してたんじゃない?」

 その言葉とともに、睦美は、抱えていた尿意を解き放ち始めた。

 睦美の尿は、少しずつではあるが、確実に菜乃の口へと注ぎ込まれていく。その熱い液体があふれ出るのに合わせて、菜乃は、自らの顔をさらに密着させていた。そして、続々と湧き出てくる親友の小水を、口で受け止め、喉を鳴らしながら飲み下していく。

 今の菜乃は、自らが便器であることを、すっかりと自覚していた。そのため、翔太に対する小便器になった時と、まったく異なる感情を抱いていた。口の中いっぱいに広がるぬくもりや、少し苦み走った味、そして鼻腔をくすぐる強烈なアンモニアの臭いに、自分が便器であることを再認識し、胸を躍らせていく。

 そんな、睦美の割れ目からほとばしり出る生暖かい液体を、一滴も逃さないかのように受け止め続ける菜乃。喉を鳴らしながら、何度も、何度も、飲み下しながら、心の昂ぶりを覚えずにはいられない。親友が、その下半身をゆだね、尿意を解き放ってくれるのなら、いくらでも自らを便器として捧げ、あふれ出るオシッコをいつまでも受け止めてあげたい……。菜乃は、心の底からそう思っていた。

 だが、睦美の尿意も、永遠に続くわけではない。親友の唇に、自らの割れ目を押しつけたままの排尿行為だっただけに、通常の便器にするよりも長い時間がかかってはしまった。それでも、ほんの一、二分もあれば、済んでしまうことだった。

 遂に、最後の一滴までをも、菜乃にゆだねてしまった睦美だったが、不意に、少しだけくすぐったそうな表情を見せた。排尿が終わったにもかかわらず、未だに自分の股間に顔を寄せ、残った滴までをもキレイに舐めとっていく菜乃の熱い思いを、睦美は感じずにはいられない。

「あらあら、説明する前に、もう始めちゃってるのね。女の子はわかると思うけど、オシッコの後は、紙であそこをキレイにするわよね。でも、小便器の時に見せたけど、御手洗さんは高性能だから、洗浄機能もついてるわ。だから、植野さんがしてもらっているみたいに、しっかり舐めとってもらってね」

 そんな優花の説明など、聞こえていたのかどうか。菜乃は一心不乱に、幼なじみのそこを、舐め清め続ける。やがて、睦美の発する声が、そのニュアンスを変え始めていたが、それにもお構いなしだ。

「ちょっ……、な、菜乃ちゃん……。私、もう……」

 もはやこれ以上は……、そんな感じで声を上げた睦美。そこでようやく、菜乃は舌先を離した。翔太と睦美の尿を、その体内にしっかりと感じつつ、自らを便器として捧げ、その役割を担うことができたという誇らしさに、胸を躍らせながら。

「睦美ちゃん。便器の私に、こんなにいっぱいオシッコをしてくれて、本当にありがとう」

 今までにない感情の昂ぶりを感じていた菜乃だったが、恍惚とした表情ながら、それでも少し落ち着きを取り戻したのだろう。睦美に対してお辞儀をすると、丁寧にお礼を言う。だが、その時目に入った自分の胸元を見て、表情を曇らせた。

「……でも、ごめんなさい。睦美ちゃんのオシッコ、全部飲みきれなくって……。これじゃあ、便器、失格だね……」

 睦美の割れ目へと唇を密着させ、すべての小水を自らの体内に受け止めたつもりでいた菜乃だったが、実際には、口元から垂れ出た尿で、自分の胸元を濡らしてしまったことに気づいたのだ。もっとも、男子用小便器の場合と異なり、を咥え込んでいたわけではないので、それも致し方なかっただろう。だが、便器として、その役割を立派に果たしたと思っていただけに、菜乃の落胆はひとしおだった。

 だが、そんな親友に対して、睦美は慌てて、励ましの言葉をかける。

「ううん、そんなことないよっ! 菜乃ちゃんは、立派な便器だったよ。だけど、私の便器の使い方が上手じゃなかったから、うまくオシッコできなかっただけなんだよ。私こそ、オシッコをはみ出させちゃって、ホントにゴメンねっ」

 その言葉は、やはり常識的に考えれば、まったくあり得ない内容だったに違いない。なにしろ、親友であり幼なじみである菜乃のことを、立派な便器だなどと言っているのだから。だが、その言葉は、睦美の真の気持ちに相違なかった。そして、自分のことを励まそうとしている、そんな優しさをしっかりと感じ取った菜乃は、自分が便器として認められたような気がした。

「ありがとう、睦美ちゃん……」

 そして、口の中にまだ微かに残る味と、うっすらと漂うアンモニアの香りに、先ほどの行為を反芻し、菜乃はうっとりとした表情を見せる。

「はーい、ふたたび注目! 見てのとおり、女の子がオシッコをする時に、御手洗さんを便器として使うのは、ちょっと難しいの。御手洗さんもまだ慣れていないし、女の子のみんなもはじめは戸惑うと思うわ。でも、協力し合って、キレイにオシッコするように努力しましょうね」

 まったくの疑問も感じることなく、教室中から、優花の言葉への返事が戻される。その声に、ふたたび満足した彼女は、クラスのトイレへと向き返ると、こう告げた。

「次のお手本の前に、はみ出させちゃったオシッコ、キレイにしちゃいましょうか? ねっ、武藤くん」

 そのことを、予期していたのだろうか。翔太はすでに、ビニールの手袋をはめ、便器ブラシと雑巾を手にしていた。そして、菜乃の唇周りから首筋、そして胸元へとついた滴を、清めていく。

 そんな少年の動きに、優しさと丁寧さを感じた菜乃は、ふたたび思った。翔太くんに、そして睦美ちゃんに、便器係になってもらえて、本当によかった。そのうえで、このクラスの便器になれた私は、きっと世界一幸せに違いないのだと……。