こんど六年生になる見ず知らずの女の子と一緒に、温泉に入る話

第十四話 ぷはぁー

 老人とその孫娘が、二人して自販機の前であれこれしているのを、ぼうっと見つめている私がいました。それでも、萎えてしまった逸物を覆い隠すべく、トランクスは穿いていたのですが、先ほどまでの余韻のため、にわかには動きがたかったのです。
「ねぇ、和人お兄ちゃん」
 そんな、どこか夢見心地だった私は、少女の呼びかけに、現実へと引き戻されました。
 そして、その口調、そしてそのしぐさは、先ほどまで私のペニスを咥え込んでいた女の子のものとは思えないほどに、子供っぽいものだったのです。
「な、なに……、瑠美ちゃん?」
「瑠美、初めてです……」
 その言葉に、ドキッとしました。少女に咥え込まれた時のぬくもり、つまり、フェラチオをされた感覚が強く残っていた私は、彼女がそのことを言っているのだと思ったのです。
「だって、学校では、三角形の紙パックなんですよ」
「あ、あぁ……」
 ですが、そうではありませんでした。瓶牛乳が初めてだということだったのです。そして、それはそうだろうとも思いました。なにしろ、高校生の私ですら、珍しいと思っていたのですから。
 差し出された「いちごミルク」の瓶を受け取った私は、飲み口を塞ぐビニールをとり、紙蓋を外してあげました。
「はい、瑠美ちゃん」
「わぁ……。ありがとう、和人お兄ちゃん」
 瓶を受け取った少女は、嬉しそうにお礼を言ってきました。
「どういたしまして」
 思わずそう言ってしまった私に対して、少女は、少しおかしそうに笑いました。再び、他人行儀だと思ったためでしょうか。
「瑠美、どうやって飲むのかは、知ってますよ?」
 ですが、そのことに触れるでもなく、彼女は突然、仁王立ちになりました。そして、左手を腰にあてがうと、右手を掲げて「いちごミルク」を飲み始めたのです。
 全裸のまま、ごくごくと喉を鳴らしながら飲み下していくその様は、たしかに見覚えのあるものでした。とはいえ、現実世界でというよりは、ドラマやマンガなどのフィクションの世界で、というものでしたが。
 その日、幾度となく見た少女の裸身でしたが、見飽きるということはありませんでした。はっきりと凝視してしまった私でしたが、少女はそんなことにはお構いなかったようです。
「ほれ、和人くんや……」
「は、はいっ!」
 そんな私の気持ちを知ってか知らずか、老人が、不意に呼びかけてきました。
 その声に、思わず狼狽している私がいました。
 もちろん、それは今更だということはわかっていました。わたしが、小学生の孫娘の裸身を、卑猥な気持ちで見つめていることは、老人にはわかりきっていたはずだからです。
「コーヒー牛乳……、『コーヒーミルク』と言うのかのぉ……、これでよかったかね?」
「あ、ありがとうございます……」
 それでも、やはり老人は、そのことには触れてきませんでした。その代わりに、しみじみとした感じで、こう語ってきたのです。
「瑠美も、ずいぶんと大きゅうなったからのぉ……」
「は、はぁ……」
「じゃが、こうして見ると、まだまだ子供じゃな……」
「……」
 なんと答えればいいのか、私には判断できませんでした。その真意を、つかみかねていたためです。
「いずれにせよ、儂の、かわいい、かわいい、孫じゃて……」
「……」
 そこで一瞬の沈黙が訪れました。
「あ、あの……」
 ですが、それを打ち破るかのように、私は声を発しました。
「なんじゃね、和人くんや」
「あの……、瑠美ちゃんのことなんですが……」
 それでも、どこかで躊躇する気持ちもありました。こんなことを不躾に聞いてしまってもよいものか、判断がつきかねていたためです。
 しかし、聞くなら今しかない。そんな思いを抱いた私は、少し探るような感じながら、話を続けたのです。
「いつも一緒に……、お風呂に入っているんですか?」
「そうじゃぞ。小さい頃から、毎日一緒じゃわい」
「それじゃ……、服を脱がせてあげたり、体を洗ってあげたりするのも……」
「そうじゃとも、そうじゃとも。なにせ、瑠美は甘えんぼじゃて……。もうすぐ六年生になるというに、まだまだ子供じゃからのぉ」
 柔和な笑みを浮かべながらそう答える老人は、どこにでもいるこうこうにしか見えませんでした。
 そこでまた、一瞬の静寂が訪れました。
 そこまでの老人の答えは、私の想定の範囲内でした。各家庭の事情として、そんなこともあるだろうとは理解できました。
 身体的には第二次性徴を迎えているにもかかわらず、精神的成長が追いついていないであろう少女。そして、そんな孫娘を、今でも小さい時と同じように思っている祖父。そんな二人が、未だに一緒にお風呂に入っていることは、一概におかしいともいえませんでした。
 ですが、あの出来事は、そんなことでは説明がつきそうにありません。なにしろ、一般的なお風呂の入り方とは、一切関係なかったのですから。
「あの……」
「なんじゃね?」
「さっきの……」
「ん?」
 それでも躊躇してしまっている私を、相も変わらず穏やかな表情で、老人は見つめていました。その表情は、とてもあんなことを孫娘にさせているとは思えないものだったのです。
「あの……、瑠美ちゃんがさっき……、その……、精液……えっと、オチンポミルク……。あれって、いつものこと……」
 そこまで言いかけた、まさにその時でした。
「ぷはぁー」
 そんな、大きな声が聞こえてきたのです。殊更に強調したそれは、彼女が見聞いたフィクションから、やはりきていたのでしょうか。
「ねぇ、ねぇ、お爺ちゃま、和人お兄ちゃん。何、お話してるの?」
 そして、自分の前で突っ立っている私たちに気づいた少女が、そう問いかけてきました。そのため、私は質問の機会を失ってしまったのです。
「なんでもない。それに、大人の話じゃて、瑠美には関係のないことじゃ……」
「はぁい、お爺ちゃまぁ」
 素直な口調でそう答えた彼女は、ふとあることに気づいたようです。
「和人お兄ちゃん……?」
「な、なに、瑠美ちゃん……」
「飲まないんですか?」
「い、いや……」
 私の持った、未開封の瓶をめざとく見つけた彼女は、少し媚びたような口調で続けたのです。
「ねぇ、和人お兄ちゃん。瑠美、『コーヒーミルク』も、飲みたいなぁ……」
 意識してやったことなのかまではわかりません。ですが、彼女は少し腰をかがめ、私を下から覗き込むような、上目遣いでこう言ったのです。
「少し、ちょうだい?」
 それは、おねだりでした。
「なんじゃ、瑠美。それは和人くんの分じゃろうて」
「だけど、お爺ちゃま、そっちもおいしそうなんだもの……」
 そんな二人のやりとりに、フッと笑っている私がいました。
「全部あげるよ、瑠美ちゃん」
 そう言って、蓋を取ってあげた瓶を、少女へと差し出したのです。
「えっ、いいの?」
「なんじゃ、和人くんや。それでは、悪かろうて」
「いえ、そもそも自分の金じゃないですし……。それに、瑠美ちゃんが喜んでくれるのなら、オレはそれで……」
 それは、紛れもない本心でした。
「わぁ、ありがとう、和人お兄ちゃん……」
 そう言って、瓶を受け取った少女は、ふたたび仁王立ちになると、「コーヒーミルク」を飲み始めたのです。
「やれやれ、瑠美もしょうがないのぉ……。和人くんのじゃというのに……」
 呆れたようにそう言った老人は、こう続けました。
「それに、そんなに飲んでは、我慢できなかろうて……」
 その声に、少女はなにか思い当たることがあったのでしょうか。不意に喉の動きを止めると、口元から瓶を離してしまったのです。まだ、半分ほども残っているにもかかわらず……。
 そして、不意に俯いてしまった彼女は、私に瓶を差し出してきました。
「か、和人お兄ちゃん……。瑠美、残りはあげます……」
 それを思わず受け取ってしまった私でしたが、少女の心情の変化に、戸惑わずにいられませんでした。
「い、いや、いいよ……。全部、瑠美ちゃんが飲んでも……」
 そんな私の言葉にも、彼女は首を横に振るばかりでした。
「瑠美、もういっぱい飲みましたから、和人お兄ちゃんが飲んでください……」
 そうまで言われては、無理強いするわけにもいきません。それに、それは元々は私の分だったのです。
「そうじゃな、それがよかろうて……」
 私たちの様子を見ていた老人が、なにか納得をしたような感じでそう言ったのですが、それは孫娘の心情に思い当たったせいなのかも知れません。
「そ、それじゃ、ありがたくもらうよ……」
 私は、瓶の飲み口を自分の唇にあてがうと、それを飲み始めました。もちろん、少女のように仁王立ちになることはなかったのですが、それがいわゆる間接キスになるのだということに、気づいてはいました。
「さてさて、それでは服を着てしまうかのぉ。いつまでも裸では、風邪を引いてしまうて……」
 私が飲み終えるのを見届けた老人は、そう促してきました。そして、さも当然のように、こう続けたのです。
「和人くんや、何度も手間をかけさせて悪いんじゃが、瑠美に着せてやってくれんかね」
 それは、ある意味、予想されていたことでした。そして、少女も当然のように、そう頼んでくるものと、私は思っていたのです。