こんど六年生になる見ず知らずの女の子と一緒に、温泉に入る話

第十五話 オムツ、穿かせてください

「ね、ねぇ、お爺ちゃま……」
 少女はどこかモジモジとしたまま、そう囁くように言ったのです。
「瑠美、お爺ちゃまにして欲しいの……」
 そして、相変わらず俯いたまま、そう答えるのみでした。その様子は、どこか私の視線を避けるようにも感じられたのです。
 それは、出会ってから初めての、拒否の言葉でした。少女にそう言われ、私は少なからずショックを受けていたのも、また事実でした。
「なんじゃ、瑠美。和人くんじゃ、イヤなのかね?」
「そ、そうじゃ、ないけど……」
 歯切れ悪くそう答える孫娘に、老人は軽く肩をすぼめながら、こう告げたのです。
「瑠美や……。のんびりするために温泉に来た、と言うたろう……」
「…………」
「じゃから、今日くらいは、儂の手を煩わせんでくれんかのぉ……」
「…………」
「和人くんに着せてもらうので、いいんじゃな?」
 少女は、黙って頷きました。
「それでは、和人くんにお願いせんといかんて……」
 そう促された少女は、顔を上げると、私の方へと向き返りました。そして、そんな彼女の表情を見て、私はハッとする思いでした。
「か、和人お兄ちゃん……、瑠美に、お洋服を着せてください……」
 か細い声でそう言った彼女の表情は、羞恥に包まれたものだったのです。
 その意味に、私は思い当たることができずにいました。
 もちろん、本来であれば、こんど六年生になる女の子が、高校生男子に着替えさせてもらうことは、恥ずかしいことだったでしょう。ですが、彼女が今更、それぐらいのことを気にするでしょうか。今までの方が、よほど恥ずかしいことがあったと思うのですが……。
「和人くんや、その中に着替えが入っているからのぉ……」
 老人は、脱衣かごの中に置かれた巾着を指さしてそう言いました。
「まずは、穿かせてやってくれんかね?」
 その言葉に、私は大きく頷きました。なにを……、とは言いませんでしたが、当然ながら、その言葉の意味するところは明らかなようでした。
 私は、巾着の中に手を入れました。もちろん、そこには、いくつかの布製品があると思っていました。パンツや、パジャマが入っているはずだったからです。
 ですが、指先に触れた感触は、布のそれではありませんでした。なにかカサカサとした、厚手の物体がそこにはあったのです。
 不思議に思いながら、それを取り出した私でしたが、それを見てもなお、すぐにはその正体に気づけませんでした。それは、あまりに予想外のものだったためだと思います。
「こ、これって……」
 淡いピンク色をしたそれは、不織布でできた、厚手のものでした。そして、それを手にしたまま、私は意味がわからなかったのです。
「のぉ、和人くんや……。広げて、穿かせてやってくれんかね。パンティーと同じじゃて、方法はわかるじゃろうから……」
 ですが、老人はさも当然のように、そう告げてきたのです。
 その言葉に、それをひらいた私は、その厚手のものがパンツタイプの紙オムツだということがわかりました。それは、小学校六年生はもちろんのこと、十歳だったとしても身に着けるようなものではなかったでしょう。
 驚きのあまり、私は少女を見つめてしまいましたが、そんな私の視線に、彼女はふたたび目を伏せてしまったのです。
「ほれ、瑠美や。言うことがあろうて……」
「…………」
「きちんと、お願いせんと……」
「…………」
 相変わらず黙ったままの少女でしたが、その時の私には、少女の心情が理解できていました。彼女は、紙オムツを穿かねばならないことに、とてつもない恥ずかしさを感じているのだ、と。
「瑠美や……」
 そんな老人の声は、ほんの若干ですが、苛立ちを感じさせるものでした。
 それを、少女もわかったのでしょうか。それとも、こうしていても、なにも解決しないと思ったからでしょうか。私の顔を見つめると、こうお願いしてきたのです。
「和人お兄ちゃん……。瑠美に……、オムツ、穿かせてください……」
「あ、あぁ……」
 私は、思わず生唾を飲み込んでいました。今まで感じたことのない感情が、私を包み込んでいたのです。
「毎晩のことなんじゃが、瑠美はこれなしでは、寝られんでのぉ……。特に今日は、宿の布団を汚したりしたら、大変じゃからな。和人くんや、しっかりと穿かせてやってくれ」
「は、はい……」
 そう答えた私は、湧き上がってくる感情の正体に、薄々と気づきはじめていました。
「そ、それじゃあ、右脚あげて……」
 紙オムツとはいえ、形状はパンツと同じです。どう穿かせるのかぐらいは、私にもわかりました。そのため、少女の足元にひざまずくと、両手で紙オムツを広げ、そう告げました。
 彼女は、黙ったまま、その指示に忠実に従ってくれました。
「次に、左脚をあげて……」
 少女の右脚が、紙オムツの脚の穴に通ったのを確認して、そう指示をしたのですが、それも忠実に守ってくれました。相変わらず、黙ったままです。
「それじゃ、持ち上げるからね……」
 彼女からの反応は、やはりありませんでした。ですが、私は両手で持った紙オムツを、少女の腰まで一気に引き上げてしまったのです。
 私の目の前に、ピンク色の紙オムツを穿いた少女が立っていました。
 その時には、私を包み込む感情の正体がはっきりとわかっていました。それは、性的興奮でした。膨らみを見せた胸を露わにしたまま、その年齢では穿かないような紙オムツを身に着けた少女の姿に、どうしようもなく昂ぶってしまっていたのです。
「次は、ネグリジェじゃな……」
 不意に発せられた老人の言葉は、ぼうっと少女を見つめていた私を、現実へと引き戻しました。
 その名称も、現在ではあまり使うものではないと思います。前世紀末でも、どうだったのでしょうか。それでも、コント番組にも出てくるような言葉でもあったため、なんのことを言っているのかは、男子高校生でもわかりました。
 ですが、ふたたび巾着を手にした私は、あることに気づいていました。もはや、その中には、なにも入っていなかったのです。
「あ、あの……、なにもないんですけど……」
 そんな私の言葉に、老人は怪訝そうな顔をしていました。
「そんなことはなかろうて……」
 そして、孫娘に向き返ると、こうたずねたのです。
「瑠美や、ネグリジェはどうしたんじゃ?」
「お、お爺ちゃま……」
「入れたんじゃないのかのぉ」
「瑠美……、お部屋に置いてきちゃったみたいです……」
 少女は、俯いたまま、か細い声でそう答えたのです。
「しょうがないのぉ、瑠美や」
 それを聞いた老人は、やれやれといった感じで顔を横に振ると、こう続けたのです。
「じゃが、部屋までじゃからのぉ。オムツだけでも、問題なかろうて……」
 それに黙って頷く少女を見て、私の方が驚いてしまいました。その意味するところは、明白なように思えました。
「で、でも、着てきた服があるんじゃ……」
 私は、思わずそうたずねてしまいましたが、それはある意味当然のことだったと思います。老人は、この格好のまま、部屋まで、孫娘を連れ帰るつもりなのですから……。
 ですが、老人はふたたび頭を横に振ると、呆れたようにこう返してきたのです。
「和人くんや。せっかく風呂に入って、体をきれいにしたというに、一日着ていた服をもう一度着てしもうては、意味がなかろうて……」
「で、でも、こんな格好で、部屋まで戻らせるなんて……」
「なんの、なんの。瑠美はまだオムツもとれないような子供じゃて、誰も気になぞせんじゃろうて……」
「そ、そうは言っても……」
 自分のことではないとはいえ、少女の心情をおもんぱかって、なおも食い下がろうとした、その時です。
「お、お爺ちゃま……」
 不意に発せられた少女の声に遮られてしまったのです。
「なんじゃ、瑠美や……」
「お爺ちゃま……。瑠美……」
「だから、なんじゃ?」
 少女は顔を真っ赤にしながら、少し躊躇しているようにも感じましたが、それはほんの数秒の間のことに過ぎませんでした。
「瑠美……、おしっこ……」
 遂に言ってしまったその言葉に、老人はやはりといった表情で答えました。
「じゃから、あんなに飲むなと言うたではないか」
 モジモジとしている少女に、祖父は続けました。
「それに、風呂場でしてから、まだ三十分ぐらいしか経ってなかろうて……」
「だって、お爺ちゃま……」
「どうして、瑠美はこうも、おシモが弱いかのぉ……」
 そして軽くため息をついた老人に対して、私は言わずにはいられませんでした。それは、少女のことをかわいそうだと思ったからです。
「そ、それは、とりあえず置いておいて、トイレに行かせてあげた方がいいんじゃないですか。ちょうど、そこにありますし……」
 そこには、トイレがあったのです。であれば、四の五の言っていないで、行かせてあればいいと思うのは、当然だったと思います。
 ですが老人は、私の考えに同調しませんでした。そして、予想外のことを孫娘に告げたのです。
「もっとも、そのために穿いておるんじゃからのぉ。まぁ、替えは部屋にあることじゃし、してしまえばよかろうて」
 それを聞いた私は、驚くしかありませんでした。その言葉の意味は、火を見るより明らかだったのですから。
「じゃがな、瑠美や。せっかく和人くんが穿かせてくれたのに、もう使ってしまうんじゃ。なにか言うことがあろうて……」
 その言葉に、少女は顔を上げると、私を見つめてきました。そして、こう言ったのです。
「和人お兄ちゃん……」
「あ、あぁ……」
「和人お兄ちゃんが、せっかく穿かせてくれたのに……」
「う、うん……?」
「オムツにすぐにオシッコしちゃって、ごめんなさい……」
 そう言い終えた少女は、ひときわ大きく体を震わせました。
 少女のピンク色をした紙オムツが、大きくふくらんでいくのがわかりました。そしてその表面が、薄黄色に変色していくのもです。
 その様に、ふたたび生唾を飲み込んでいる私がいました。えもしれぬ興奮が、ふたたび私を包み込んでいたのです。それに連れ、私の逸物はふたたび屹立してしまっていたのですが、それと同時に、微かな違和感も感じはじめていました。ですが、それは性的なものとは別種のものだということにも気づきはじめていたのです。
 実際には、それはほんの数十秒の出来事だったと思います。ですが、私にとっては長い長い時間のようにも思えました。
 やがて、少女の表情が明らかに変わりました。ホッとした表情から、それが終わったのは明らかなようでした。
「あとは、部屋に帰ってから、オムツを替えて、ネグリジェを着るだけじゃな」
 老人にも、そのことはわかったのでしょう。孫娘にそう告げると、私の方へと向き直りました。
「和人くんも、着替えてしまえば……」
 ですが、私の様子を見た彼は、異変に気づいたようでした。
「どうしたのじゃ、和人くんや?」
 その時の私は、小刻みに脚を震わせていたのです。それは、先ほどまでの少女と同じ生理現象が起こっていることを、老人にも伝えていただろうと思います。
「ちょ、ちょっと、トイレ行ってきます……」
 私は慌ててそう言うと、小走りに駆け出していました。
「すぐに戻りますから……、ちょっと待っててください!」
 そう言って、脱衣場にあるトイレへと駆け込むはめになったのです。