こんど六年生になる見ず知らずの女の子と一緒に、温泉に入る話

エピローグ

 トイレの中にいたのは、ほんの二、三分のことだったと思います。
 スッキリとした面持ちの私を出迎えたのは、誰もいない脱衣場でした。そこには、人っ子一人いなかったのです。老人も、そして少女も……。
 私は、彼女たちが使っていた脱衣かごのところへ駆け寄りましたが、そこに入れられていたはずの服もなにも、きれいに消え去っていました。
 待っていてくれるようにと言ったにもかかわらず、姿を消してしまった二人に、憤りを感じないでもありませんでした。
 ですが、それ以上に、なにか狐にでもつままれたような、そんな不思議な感覚をも覚えていました。今までの淫靡で、不思議な出来事は、すべて幻だったのではないかと……。
 そんなことを、半ば茫然としたまま考えていた私は、ふと、少女が使っていた脱衣かごの中に、なにかが残されていることに気がついたのです。
 そして、それを確認しようと、やにわに手を伸ばした、その時……。
 脱衣場の入口が、突然開かれました。
 私は、老人と少女が戻ってきたのかと思いましたが、実際にはそうではありませんでした。
 浴衣姿の宿泊客が数名、ガヤガヤといった感じで入ってきたのです。おそらくは、団体客なのでしょう。気心の知れたような、和やかな雰囲気の彼らを見て、私はとっさにある行動を取っていました。
 急いで手を伸ばすと、少女の使っていた脱衣かごに残されていた、白い物体をつかみ取りました。そして、手早く着替えると、廊下へと飛び出していったのです。
 その後、しばらく館内をうろついてみましたが、老人と、その孫娘の姿を見つけることはできませんでした。
 そして、「お前がこんなに風呂好きだとは知らなかった」と父親に言われるほど、何度も何度も、時間の許す限り男湯へと出向いたのですが、ついぞ彼女たちと出会うことはなかったのです……。
 今でも、あれは夢だったのではないか、なにかに化かされでもしたのではないか、そんな思いに囚われることもあります。
 ですが、言わずもがなことではありますが、すべて現実に起こったことなのです。
 そしてそれは、今、私の目の前にあるモノが証明してくれています。
 アニメキャラが正面にプリントされた、大判の子供向けパンツ。これは、少女の使っていた脱衣かごに残されていた、まさにそのものです。時の経過とともに、少し古びたような感じになっていますが、彼女があのとき穿いていた、あのパンツに違いありません。
 それは、強固な染みとなってしまっているおちびりの跡、そして、クロッチ部分に微かながらに付着したままになっている茶色い線からも明らかです。あれはすべて、実際に起こったことだったのです。
 もちろん、少女と老人に会うことは、二度とありませんでした。
 ですが、今でもふと考えることはあります。彼らは一体、どういう関係だったのかと……。
 こんど六年生になるにもかかわらず、まだまだ精神的に幼さを残した、甘えんぼの孫娘と、そんな彼女のことをまだまだ子供だと思っている祖父――。
 おそらくはそうなのでしょう。ですが、それは、少女と老人がそう言ったにすぎないのも、また事実なのです。
 ひょっとしたら、少女は本人が言ったほどには幼くはなかったのかもしれません。その身体つきに反して、実際にはもっと上の年齢の女性だったのではないか。そして私は、そんな女性と老人の、ある種のプレイにでも付き合わされたのかもしれません。
 もしくは、実際には、二人は祖父と孫娘などではなかったとも考えられます。そして、少女は自らの意志であれらのことを行ったのではなく、老人に強要されていたのではないか……。
 これはもちろん、答えの出るようなことではありません。
 ですが、私としては、彼らの言っていたことを信じたいと思います。少女は自らの意志で、誰からも強要されることなく、あのような行動を取ったのだと。それは、無知故の行いであり、後年には赤面することになるとしても、です。
 その一方で、はっきりとしていることもあります。
 膨らみ始めた胸。まだ発毛の兆しも見せない割れ目。そして、それらを含んだ、まさに子供から大人へと羽化しはじめた裸体。そして、少女の放尿姿に、オムツ姿。そして、今まさに目の前にある子供向けのパンツ……。
 これらを含めた、あの日の出来事が、私の性癖に決定的な、そして取り返しのつかない変化を与えてしまったのです。

(了)