防災訓練期間中、女の子はバケツに用を足してください

第五話 ウンチ

「つ、次に……、う、ウンチ……、をしたいと、思います」

 そんな純枝の言葉に、美香は考えの甘さを思い知らされた。

 バケツに用を足すということは、小だけとは限らない。確かに、大きい方だって含まれるに違いない。少女が披露するお手本の中に、大便のそれが含まれるであろうことは、最初に「女の子は、野糞は、はしたなくてできない」と言ったことを思えば、当然と考えておくべきだった。

 だが、まさかそんなことが本当に行われるのか、という思いが美香には強い。

 しかし、再びしゃがみ込んだ純枝の姿に、これから紛れもなく、それが行われるのだということは明らかだった。

 男子生徒たちの間に、声にならないざわめきが広がる。彼らとしても、そこまでは考えていなかったのであろう。

「う、ううぅん……っ」

 バケツを跨いでしゃがみ込んだ純枝は、そのまま息み始める。

 先ほどとは一転、男子たちからも言葉は出てこない。皆がかたをのんで見守っていた。

 純枝はあまりお通じが良くないのであろうか。そのまま、二分ほど息んでいたが、いきなり破裂音が教室中に響き渡った。その瞬間、彼女のまだ堅さの残る双臀の間から、茶色い粘状のものが、ひり出されてくる。そして、それまでの臭いとは異なる、さらに強烈な悪臭ともいえるものが、教室中を覆い尽くしていく。

 ようやく出始めたことに、純枝も少し安堵した表情になる。そして、またも説明を口にし始めた。

「う、ウンチは、お尻の穴から、出ます……。だから、バケツを跨ぐときは、先ほどの、お、オシッコ、のときとは違って……、うぅんっ! ば、バケツの真ん中を跨ぐようにしてください……。くぅぁあっ!」

 その間も、純枝のウンチは途切れる気配を見せない。

「つまり、オシッコと……、う、ウンチのときで、バケツに跨がる位置が、違います。ですから、お、オシッコと……、う、ウンチを……、同時にしてしまうと、どちらか一方は、バケツからはみ出てしまうことになります。そうならないように、オシッコと、う、ウンチの、どちらか片方ずつできるように、この防災訓練の期間中に、しっかり身につけてください……」

 排泄音を響かせながら、純枝の排便が続いている。またも、説明自体は終わってしまったのだろう。あとは、体内に溜め込んだ不浄物をすべて排泄し尽くすまで、黙って息み続けるしかない。

 それは、思春期を迎えた、最も潔癖で、最も多感な年頃の少女にとって、到底あり得ない行為だった。もし自分だったら、あまりの恥ずかしさに、もう学校になど来られないだろう。なにしろ、クラスメイトたちに、一部始終を見られてしまっているのだから……。

 そう思いながら、ふと教室を見回した美香は、とんでもない事実に気づかされた。

 純枝の周りに群がっている男子たちと違い、女子たちは全員席に腰を下ろしたままだった。皆、恥ずかしそうに顔を赤らめ、小刻みに震えている者もいる。にもかかわらず、皆が本当に何かのお手本を見るかのように、純枝の行いを真剣に見つめていたのだ。

 つまり、純枝も、他の女子生徒たちも、羞恥心を抱きつつも、今繰り広げられている行為自体は、行われてしかるべきものと捉えていることが、そこからは見て取れた。

 美香は再び、ひどい立ちくらみを覚えたが、それでも教え子のれんな行為を、再び見つめた。無力ながらも、ここで現実から目を背けるのは、教師として無責任だという、そんな思いを抱き始めていたためだ。

 またも、永遠と思われる時間が経過した。だが、もちろん実際にはほんの数分の出来事に過ぎない。少女の様子から、ようやくのことで体内の汚物を出し終えたことがわかる。羞恥の中にも、どこかスッキリとした表情を浮かべている。

 少しよろめきながらも、どうにか立ち上がった純枝は、そのまま同級生たちを見渡した。今や、教室中が、水を打ったように静まりかえっている。

 そんな中、好奇心に駆られた男子生徒の一人が、鼻の曲がるような悪臭をものともせず、再びバケツの中をのぞき込んだ。

「す、すげぇ……」

 それは、ほとんど絶句といってもよい呟きだった。

 確かにバケツの中身は、すごい状況だった。それでも、便ではなかったためだろう。それらは混ざり合うことなく、薄黄色い尿の中に、茶色く太い固形便が浮かんでいた。尿だけのときよりも当然体積が増しており、文字通り、今にもバケツから溢れ出しそうになっている。

 他の男子生徒たちも、その言葉につられてのぞき込んだものの、全く言葉を発することができない。

 純枝自身は、そんなバケツを一瞥しただけで、それ以上まともに見ることができない。

「こ、これで……、う、ウンチの仕方の、お手本を、終わります……」

 少女は、そんな現実を振り払うかのように、そう告げた。

 今度こそ本当に終わったのか。それならば、一刻も早く……。そんな美香の思いを、続く純枝の言葉が、またも打ち砕くこととなった。