「や、山村さん……? ちょ、ちょっと、何言ってるの?」
純枝の言葉に、美香は慌てずにはいられない。そんなことは一言も聞いていないし、そもそも、たかが防災訓練の一環として、女子トイレの使用を禁じた上で、バケツの中に用を足させようなどということは、普通に考えればあり得ないことだったからだ。
たしかに、純枝が言うように、女の子は立ちションはできないだろう。また、野糞をすることが、年頃の少女として、はしたないことだというのも、その通りに違いない。だからといって、なぜバケツに用を足さなければならないのか。それこそ、思春期を迎えた女子中学生にとって、そんなことは、はしたないどころの話ではないのだから。
だが、純枝の態度から、冗談などを言っているのではないことは、火を見るよりも明らかだった。
「先生、お時間を取らせてすみません。なるべく早く済ませますから……」
美香の言葉に対して、少女が、ぽつりと答えた。
今の美香には、純枝の心情が手に取るようにわかる。彼女は恥ずかしいのだ。それも、死ぬほどに恥ずかしがっているのだ。
それにもかかわらず、少女はその場を動こうとはしない。連絡事項を言い終えたのであれば、席に戻ってもいいはずだ。それに、これ以上、何を早く済ませるというのだろうか。美香は、なんともいえぬ、イヤな予感が自らを包み込んでいくことを感じていた。
「そ、それではこれから、お手本を見せたいと思います。バケツを使ってどんな風に用を足せばいいのか、今のうちにしっかりと見ておいてください……」
クラスメイトたちにそう伝えた純枝は、教壇の上で、信じがたい行為を始める。
まずバケツを床に置くと、多くの同級生たちの前にもかかわらず、いきなり腰に手をかけ、制服のスカートのホックを外してしまう。そして、そのままファスナーも下ろしてしまえば、真面目な純枝らしい膝下十センチ丈もある紺色の車襞スカートが、重力に従って床へと落ちた。
少女は、スカートの中に、いわゆるオーバーパンツは穿いていなかった。そのため、それだけで、純白木綿のジュニアショーツが露わとなる。
その瞬間、最前列に座っている男子生徒たちから、歓喜の声が上がった。
純枝のショーツは、子供向けほどに大柄ではないものの、ハイティーン向けほど小さくもない。それは、第二次性徴を迎え、子供向けパンツを卒業したばかりの純枝のような少女が穿くにはぴったりの大きさだった。
厚手の木綿地でできたそれは、一見飾り気の全くない、シンプルな物に見えた。だが、地の色と同じために気づきにくいだけで、よくよく見れば、小さな白いリボンが前部正面につけられ、同じく白い小さなナイロン製のレースやフリルがふんだんにあしらわれていた。
画一的な制服と違い、各人が選ぶことのできる下着などは、身に着ける者の性格や趣味が反映されるものである。派手さの全くない白という色使い、そしてあまり目立たない飾りの大きさが、純枝の生真面目さを表す一方、リボンやレース、そしてフリルといった装飾自体からは、彼女が意外と少女趣味であることが見て取れた。
そんな、年頃の少女として絶対に見られたくないであろう、多分に乙女チックな純白ショーツを、同級生の男子たちに見られ、純枝は羞恥のあまりすっかり打ち震えている。にもかかわらず、その木綿のショーツを隠すために、再びスカートを着けようとはしない。
それどころか、ショーツの腰ゴム部分に両手をかけ、一気に足首まで下ろすと、そのまま引き抜いてしまった。
そして、足下で輪のようになっているスカートを手に取り、軽く畳んで脇に置くと、脱いだばかりの、少し縮まり気味になっているショーツを、その上にきちんと重ねる。
純枝は、彼女らしい几帳面さで、自らが脱いだ服を片付け終えると、再び立ち上がり、同級生たちに向き直った。