こんど六年生になる見ず知らずの女の子と一緒に、温泉に入る話

第十二話 あ゛~~~っ゛

 脱衣場へと戻ってきた私は、何はさておき、自分のバスタオルで体を拭き始めていました。本来であれば、浴場から入る前にタオルで軽く水気を落とすべきなのはわかっていましたが、露天風呂へと置いてきてしまったため、それができなかったためです。
 ですが、そんな私を尻目に、少女は駆け出していきました。もちろん、全裸のままです。そんな彼女が向かった先は、少し大きな動作音を発しながらも動いていた、年季の入った扇風機のようでした。
 少女の行動を傍目で見ながら、私はあることを考えていました。
 先ほどのこと、つまり「だいしゅきホールド」から「角オナ」に至る一連の行為によって、少女が性的快感を得ていたであろうことです。それは、高校生の私でも、はっきりと確信できていました。ですが、それは意図したことだったのか、それとも無意識のうちのことだったのか……。
「あ゛~~~っ゛」
 そんな思考の迷宮に入り込みそうになる私を、その声が再び現実へと引き戻しました。
 回転する羽根に声を発する、そんな子供じみた行動からは、先ほど少女が見せた痴態など、まったく想像もできませんでした。まさに、無邪気な行動に他ならなかったからです。
 その様子に、フッと軽く微笑む私がいました。
「ほら、瑠美ちゃん。ちゃんと、体を拭いちゃわないと。床がびしょびしょになっちゃうよ……」
「はーい、和人お兄ちゃん!」
 嬉しそうにそう答えた少女は、両手を軽く広げながら、私の元へと舞い戻ってきました。
 ですが、あることに気づいた彼女は、少し怪訝そうな声でこうたずねてきたのです。
「あれ? 和人お兄ちゃん、もうパンツ穿いちゃったんですか?」
「あ、あぁ……」
 彼女の言葉のとおり、私はパンツ、もう少し詳しくいえば、トランクスを穿いていました。湯船の中ならまだしも、脱衣場でまで、私の屹立してしまったペニスをさらけ出し続けることは、私の羞恥心が許さなかったからです。
「なんでですか? 裸んぼのままの方が、気持ちいいですよ?」
「まぁ、そうかもだけど……、ねっ……」
 そう言葉を濁した私でしたが、この時には少し後悔もしていました。
 とはいえ、それは少女の言うように、裸のままでいた方がよかったということではありません。
 すっかりと屹立してしまった私のモノが、トランクスの布地を盛り上げていることは、自分でもありありとわかっていました。そして、その部分に少女の視線が向いていることも、はっきりとわかっていたのです。そのため、こんな恥ずかしい格好を見られてしまうのならば、今のような中途半端な格好ではなく、スラックスまで穿いてしまえばよかったと思ったのです。
「そ、それより……、ほら、体拭いちゃお。ねっ、瑠美ちゃん?」
 強引に話題を変えた私でしたが、少女はそれ以上、そのことには触れてこないようでした。その代わり、元気に返事をすると、自分の脱衣かごから布地を取り出してきたのです。
「はい、和人お兄ちゃん」
 そう言った彼女は、さも当然のごとく、それを私に手渡してきました。
 そのゴワゴワとした手触り、そして形と大きさから、それがバスタオルであることは一目瞭然でした。少女向けアニメのキャラクター柄になっているのは、もはや当たり前のように思えてもいました。
 私の目の前で、少女が両腕を大きくひろげ、両脚は軽く広げた状態で立っていました。そんな格好と、今までの出来事を考えれば、どうして欲しいのかは、言われるまでもありませんでした。
 慣れというのは、恐ろしいものです。それはもはや、大騒ぎをする程のことでもない、そう思っている自分がいました。そのため、まるで幼子ででもあるかのように、彼女を拭き上げ始めたのです。
 腕から肩周り、膨らみを帯びた胸、お腹と背中、細い両脚と腰回り、そして股の間と丁寧に拭いてあげましたが、彼女はなにも言いませんでした。ですが、少しくすぐったそうな表情、そしてある部位においては、それだけにとどまらないような表情を見せていたのですが……。
「はい。おしまいだよ、瑠美ちゃん」
 最後に髪を拭いてあげた私は、彼女にそう告げました。本来であればドライヤーをかけてあげるべきでしょうが、それほど長くもないおかっぱ頭だったため、さしあたりそれでよしとしたのです。
「ありがとうございます、和人お兄ちゃん」
 そう言った彼女は、ぺこりとお辞儀をしてきました。それは、その日何度目のものだったのかわかりませんが、それでも嬉しい気持ちにさせるものでした。それと共に、きちんとお礼の言える少女の育ちのよさがうかがえるようにも思えたのです。
「どういたしまして、瑠美ちゃん」
 そして、そう感じたからなのでしょうか。私も軽くお辞儀をすると、優しくそう答えていました。
 ですが、そんなお互いの様子を、どこか他人行儀に感じたのでしょう。私たちは顔を見合わせると、二人して笑い出していました。それは、他人から見れば、微笑ましい光景だったに違いありません。
「ほら、瑠美ちゃんも、服着ちゃおうよ?」
「えー、裸んぼのほうが、気持ちいいですよぉ?」
 私としては、少女にも服を着て欲しかったのです。本心から……かどうかと言われれば、それは断言しにくいのですが、いつまでも裸のままでいさせるのは、「お兄ちゃん」という立場が許さなかったのでしょう。ですが、少女は乗り気ではないようでした。
「そんなこと言わないで、パンツだけでもさ……」
 私の再びの言葉にも、少女は「うん」と言いませんでした。それどころか、先ほどまでとはどこか感じが変わったようにも思えたのです。
「だってぇ……。瑠美が穿くのは……」
 そんな彼女の言葉を、私は怪訝な表情で聞いていました。私には、彼女の心情はわかっていたからです。少女は、どこか羞じらうようなしぐさを見せていたのですから……。
 前例にならうならば、服を着させてもらうのも、人にやってもらうのでしょう。それは、常日頃であれば祖父たる老人、今日は私になるのではないかという予感はしていました。そのため、そのことを恥じているのかとも思ったのですが、それも変な風にも感じていたのです。今更、それしきのことを恥ずかしいと、少女が思うでしょうか?
「穿くのは?」
 オウム返しの私の問いに、少女は囁くような声で答えました。
「瑠美が、夜寝る時に穿くのは……」
 ですが、そこまで言ったところで、不意に言葉が途切れてしまいました。
 恥ずかしそうに、少し俯いてしまった彼女のことを、私はますますいぶかしげに見ていました。ですが、急に顔を上げた少女は、こう言ったのです。
「もう、和人お兄ちゃんのイジワル」
 その言葉に、驚いている私がいました。なにがイジワルなのか、皆目見当もつかなかったからです。
 ですが、そんな私を置き去りにして、少女は言葉を続けました。
「瑠美は、いいんです。裸んぼの方が気持ちいいから、最後までこのままでいるんです」
「わ、わかったよ、瑠美ちゃん……」
 そうまで言い切られてしまった私は、これ以上無理強いをしない方がいいと思ったのでしょう。それは、喧嘩になりたくなかったというのもあるのですが、それ以上に、本心としては、少女の裸身をまだ見ていたいという気持ちがあったからなのは否定できません。
 いずれにせよ、この件に関しては、引き下がることにした私は、話題を変えることにしたようです。
「そ、それはそうと……。瑠美ちゃん、のぼせちゃったりしてない?」
 それは、形式的な質問に過ぎませんでした。本当にのぼせてしまっていたのであれば、扇風機の前で変な声を出したり、私にしっかりと体を拭き上げてもらったりなどできなかったでしょう。それはわかっていたのですが、なにか話題の転換点が欲しかったのです。
「大丈夫です、和人お兄ちゃん。瑠美、元気ですよ。でも……」
「でも?」
「のぼせてなくっても、飲んじゃってもいいですよね?」
 少女の言葉に、そもそも脱衣場へと戻ってきた理由を、今更のように思い出した私でした。
「あ、あぁ。そうだったね。まぁ、そこは別に大丈夫だと思うよ……」
「やったぁ!」
 少女の喜びの声を聞きながら、周囲を見渡していた私は、視線の先に、あるものを捉えていました。
「あそこにあるの、自動販売機だよね? なにがあるかなぁ……」
そう呟いた私の腕を、少女が再びつかんでいました。
「はやく、はやく……」
「わかったから、そんなに慌てないでよ、瑠美ちゃん……」
 相も変わらず、少女に軽く引っ張られながらも、私は自販機の前へとやって来ました。
 コンプレッサーの音を周囲に響かせているそれは、やはり年季の入った代物でした。そしてそれは、自動販売機には違いなかったのですが、一般的な清涼飲料水を売っているものではなかったのです。
 前面がガラス張りになっているそれは、牛乳の自動販売機でした。聞いたことがないブランドでしたから、おそらくは地元のメーカーだったのでしょう。それらは、瓶入りのものだったのですが、それは当時としてもあまり見かけるものではありませんでした。いくら前世紀の終わり頃とはいえ、主流は紙パックだったのですから……。
「あぁ、牛乳だね……」
 思わずそうつぶやいた私でしたが、少しがっかりしていたのだと思います。まだ十六歳の少年ですから、炭酸のきいた甘いものが飲みたかったのです。
 ですが、それを言っても始まりません。それに、温泉らしいと言えば温泉らしいとも、考え直したのでしょう。
「瑠美ちゃん、牛乳飲める? アレルギーとかない?」
「大丈夫ですよ。瑠美、大好きです」
 その言葉を聞きながら、私はガラスの内側を確認していきました。
「えーと、なにがあるかなぁ……」
 牛乳の自動販売機とはいえ、本当に白い牛乳だけを売っていた訳ではありません。
「普通の牛乳でしょ……。コーヒー牛乳……商品名は『コーヒーミルク』だね。あとは……、『いちごミルク』と『フルーツミルク』……」
 無意識のうちに、そう言っていた私でしたが、それは彼女にもわかるようにという考えがあったためだと思います。
「瑠美ちゃん、どれにする?」
「なんでもいいの?」
 嬉しさがにじみ出るような感じで、少女はそう尋ねてきました。
「あぁ、なんでもいいよ」
「ほんとに、なんでもいいの?」
「なんでもいいってば……」
 そう答えた私でしたが、それは私の金ではなかったのです。とはいえ、どれも同じ値段でしたし、たいした金額ではなかったのですから、老人が文句を言うとも思えなかったのですが……。
「えっとねぇ、瑠美ねぇ……」
 キョロキョロと見回しながら、少女はそれでも意を決したようです。
「この中だったら、『いちごミルク』がいいな」
「あぁ、『いちごミルク』ね……」
 そう言って、硬貨を入れようとした私でしたが、再び少女に腕を引っ張られてしまいました。
「ねぇ、和人お兄ちゃん……」
 少しはにかんだ様子で、少女は続けました。
「ほんとに、なんでもいい?」
「ああ、いいよ」
「ほんとに、ほんとに……、なんでもいいの?」
「だから、いいってば」
「あとでダメとか言わない?」
「言わないってば」
「絶対? 絶対、約束だからね?」
「絶対だよ。嘘なんか言わないから……」 
 必要以上に食い下がる少女に、どこかいぶかしげな感じは抱きましたが、それでも私はそう答えました。
「『いちごミルク』じゃない方がいいの? 『フルーツミルク』、それとも……」
 そこまで言った私を見つめながら、少女が顔を横に振りました。
「瑠美、ほんとは、別のミルクがいいなぁ……」
 それでも少女の真意に気づけなかった私は、今からして思えば、相当鈍かったのだと思わざるを得ません。              

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