家庭科部の男の子 ~裕太くんとおねしょパンツ~

最終話 お兄ちゃんパンツと……

「それじゃあ、いよいよお待ちかね……かなっ? お兄ちゃんパンツ、穿かせてあげるねっ」

 ようやく、本当に最終段階へとやって来た。と入れ替わるように、ふたたびゆうの正面へと歩み出る。そして、その手には、布の塊がひとつ握られていた。そして真理江は、その布地を、裕太の目の前で大きく広げて見せた。

 それは、朝一で女子部員たちに取り上げられた、裕太のボクサーブリーフのはずだった。だが、なにかが違う。今日穿いていたのは、グレーのものだったはずだが、それは……。

 目の前にあるそれは、ぱっと見には、裕太のことを一日苦しめたおねしょパンツと大差がない。白い木綿地でできており、形状はほぼ同じ。だが、布地の薄さと、前面にあるスリットから、それが少年用のブリーフであることが見て取れた。

「そ、それは……」

「裕太くんの、お兄ちゃんパンツでしょ?」

 唖然としている裕太に、真理江が平然と答える。

「でも、それは……」

「あぁ、ブリーフだって言いたいのね? まぁ、裕太くんの好きに呼んでいいわよ。どっちにしても、お家に帰るときに、お姉ちゃんたちが穿かせてあげるもの……、でしょ?」

「そ、そうじゃなくって、オレが穿いて来たのは……」

 たしかに、おねしょパンツと比べれば、そんな子供っぽい、純白木綿のブリーフですら、お兄ちゃんパンツと言えるだろう。だが、自分が穿いて来た、もっと大人っぽいデザインの、グレーのボクサーブリーフは……?

「あぁ、そのこと。まだまだおもらしの直らない裕太くんには、あんな背伸びをしたパンツはダメよ。ホントは、お家でもおねしょパンツを穿いた方がいいぐらいなのに……、いきなりそれは難しいから、お兄ちゃんパンツを穿かせてあげるけど、こういうヤツの方が、裕太くんにはお似合いだと思うわ」

 その言葉に、裕太は、完膚なきまでに打ちのめされたような気がした。学校の外でまで、そんなものを穿かなくてはいけないとは。

 しばし茫然とした表情でそのブリーフを見つめていた裕太だったが、その前面、自分から見て前開きの右側に、なにか黒い文字が書かれていることに気がついた。フェルトペンで書かれたそれは、「かていかぶ ゆうたくん」という文字だった。

「あぁ、これ? 裕太くんのお名前よ。ちゃんとお名前書いておかないと、誰のかわからなくなっちゃうものね」

 まるで小さな子供のように、黒く大きな文字で名前を書かれてしまったブリーフ。しかも、名字やフルネームなどではない。幼げなひらがなで記載されたそれは、どこに所属している誰のものなのかということを、声高に叫んでいるかのようだった。

「で、でもこんなの……。家で、なんて言えばいいんだよ……」

「あら、そんなの、なんとでも言えるでしょ? 学校で、持ち物には名前を書けって言われたとか……」

 だからといって、「ゆうたくん」はないだろう。しかも、「かていかぶ」という文字のおまけ付きなのだ。

 だが、次の言葉を前にしては、選択の余地などなかった。

「あらぁ、裕太くん。せっかく、お姉ちゃんたちが用意してあげたお兄ちゃんパンツ、イヤなのかしら。だったら、別に穿かなくてもいいのよ?」

「いや……。は、穿くよっ。穿けばいいんだろ」

「穿・け・ば・い・い?」

 真理江の声が、一段と低くなった。優しげな雰囲気が消え、険しさを見せた表情に、裕太は自らの失言を悟った。

「ま、真理江お姉ちゃん、ゴメンなさい……。は、穿かせてください。オレに、そのブ……お兄ちゃんパンツ、穿かせてください」

「もう、最初っから素直に、ちゃんとお願いすればいいのに。お姉ちゃん、ちょっと怒りそうになっちゃった」

 ふたたび優しい口調へ戻った彼女は、裕太の足元で、ブリーフを左右に広げた。

「転んじゃわないように、ゆっくりでいいわよ。うまく穿けるかしら。ねぇ、裕太くん?」

 相も変わらずの子供扱いだが、もはや気にする余裕もない。ひらがなで名前の書かれた、子供用ブリーフとはいえ、ようやく、普通の下着に戻れるのだ。

 片方ずつ、ブリーフへと脚を通し終えたことを確認した真理江は、それをゆっくりと引き上げていく。それはじれったいほどの速度だったが、遂には腰まで穿き込むことができた。

「あーあ、終わっちゃったわね」

 彼女は、名残惜しそうにつぶやいた。そしていきなり、そのブリーフの前面部を軽くはたいた。それはちょうどオチンチンの部分だったが、すっかり気を抜いていた裕太は、突然の刺激に、大きく体を震わせた。

「……ふふ、裕太くん。おねしょパンツと違って、吸い取ってくれないからね。お家に帰るまで、おもらししないように、気をつけないとダメよっ」

 真理江は、残念そうにそう言った。最後の最後、安心しきった時を見計らって刺激を与えたにもかかわらず、射精には至らなかったからだ。

「おズボンも返してあげる。これぐらいは、穿かせてあげなくっても、大丈夫でしょ?」

 そう言いながら学生ズボンを手渡すと、他の部員たちのもとへと退こうとする。

「お、お姉ちゃん……」

 だが、そんな真理江のことを、裕太は不意に呼び止めた。

 立ち止まり、振り返った彼女のことを、少年が見据えていた。

「真理江お姉ちゃん。それと、すみお姉ちゃん、すずお姉ちゃん……、あと、お姉ちゃんと由貴お姉ちゃんも……、オ、オレのオチンチンの……、お世話をしてくれて、ありがとう……」

 誰に言われるでもなく、お礼ができた裕太に対して、真理江も、他の部員たちも、愛おしさがこみ上げてくる。そして、ふたたび彼のもとへと歩み寄った真理江は、その頭を優しく撫でさすった。

 裕太が、本当の意味で、家庭科部の弟の立場を受け入れた、まさにその瞬間だったかもしれない。おねしょの直らない、いや、直すことのできない自分は、お姉ちゃんという名の先輩たちに、これらかもオチンチンのお世話をされる日々を送らざるを得ない……。それは、諦めともいえるものだったのだが、その一方で、ほんのわずかながらの別の感情をも含んでいたのだが……。

「すみません、家庭科部はここでいいですか?」

 その時、不意に家庭科室の扉が開かれた。そして、一人の女子生徒が入ってくるのが、その場にいた全員から見て取れた。

「一年三組のとうといいます。家庭科部に入部したくて……」

 そう言いながら、真理江たちに近づいてきた彼女は、その中心にいる人物に気がついて声をあげた。

「あれ、ユウくん?」

「い、いく……」

 裕太は、その少女の顔を見るなり、顔面蒼白となった。だが、そんな彼のことを無視するかのように、真理江は、育美と呼ばれたその少女へと話しかける。

「私が、家庭科部部長のともちかです。家庭科部へようこそ。入部希望ということで、いいのかしら?」

「はい、私、家庭科部に入りたいのですが……」

 そう答えた少女は、裕太のことを、まじまじと見つめていた。

 そんな下級生少女の様子を受け、真理江は、少し不思議そうな表情で尋ねた。

「えっと、裕太くん……、くんのことを、知っているのかしら?」

「はい。ユウくん……、えっと……、佐々木くんとは幼なじみで、家も隣なんです。それと、今は同じクラスで……」

 だが、そう答えた少女は、あることに気づいて、急に目を伏せた。裕太は依然としてブリーフ姿だったからだ。それは、真理江に手渡された学生ズボンを、まだ穿いていなかったためだった。

「あら、そうだったのね……」

「は、はい……、でも、どうしてユ……、佐々木くんがここに……」

「あら、裕太くんも、家庭科部なのよ。だから、佐藤さんが入部してくれたら、裕太くんと同じ部活ってことになるわ」

 そこまで言った真理江は、少し含み笑いをすると、ふたたび話を続けた。

「この学校の家庭科部は、楽しいわよ。特に今年からは、今まで以上に、より一層充実した部活生活を送れるわ……。他の学校では経験できないような、ねっ」

「他の学校では経験できないような?」

「そうよ。強いていえば……、そうねぇ、育児体験みたいなものかしら。お姉ちゃんとして……」

 そこまで言った真理江は、そっと裕太に近寄った。そして、顔を近づけると、耳打ちをする。

「ねぇ、裕太くん。新しいお姉ちゃんが、入ってくれるみたいよ……」

 お姉ちゃんという名の先輩だけではない。お姉ちゃんという名の同級生、しかも幼なじみの女の子にも、これからはお世話をされなければならない……。そのことに思い至った裕太は、軽い立ちくらみのようなものを覚えた。

 だが、その一方で、別の感情が溢れ出してくる。そして、そんな昂ぶりに、すでに限界へと達していた裕太は、堪えきることができなかった。そのため、せっかく穿いたばかりのお兄ちゃんパンツに、精液を解き放ってしまったのだ。

「あらぁ、裕太くん。せっかくお兄ちゃんパンツを穿いたのに、またおもらし……、しかも、白いオシッコ、おもらししちゃったのねぇ……」

 その様を、真理江がめざとく見つける。そして、クスッと笑うと、育美へと振り返った。

「ねぇ、佐藤さん。早速だけど、やってみないかしら、育児体験?」

 そして、ふたたび、裕太へとささやいた。

「わかってるわよね、裕太くん。ちゃんとお願いできるわよね?」

 これから、同じことが繰り返される。それも、幼なじみの手によって……。そのことに気づいた裕太の心を、屈辱感が満たしていく。そして、理性として、たしかにそうに違いはなかったのだが……。

 それとは別に、不思議な感情が、自分を満たしていくことにも、裕太は改めて気づいていた。もっとも、それが、いわゆるマゾヒズム、被虐性欲だということに思い至るには、彼はまだ幼かったすぎたかもしれない。

「い、育美お姉ちゃん……、オ、オレのおもらし……」
 
 だが、そう言葉を発した裕太の表情は、明らかに恍惚としたものだった。

(了)