一週間前の、あの出来事をまざまざと思い出すとともに、深い無念さに苛まれていた裕太だったが、そんな彼の気持ちなど、真理江にとっては重々承知していることだった。だが、そんなことは顔には出さない。
「裕太くん、お返事は?」
徹底的に、まだおもらしの治らない子供扱いをしているその言葉遣いに、裕太は屈辱の余り唇を噛みしめた。そして、無言のままだ。
「あら、裕太くんたら。お返事できないのかしら? お姉ちゃんたちが、こんなに一生懸命、おもらししちゃう裕太くんのために、トイレトレーニングをお手伝いしてあげてるっていうのに……」
ふたたび突きつけられる「おもらし」という言葉に、裕太は憤りを感じずにはいられない。たしかに、学校でおもらしをしてしまったことは、事実だった。だが、それはあくまでも、たまたまそうだっただけのこと。通常であれば、おもらしなどするはずもないし、当然のようにおねしょパンツなど穿く必要もない。
だが、裕太はすっかりと弱みを握られてしまったのだ。それは、優しげに感じた真理江たちが、その裏に、とんでもない真の顔を隠していることに気づけなかったためだ。
あの日の出来事が、すべて密かに録画されていたことを知ったのは、その翌日のことだった。その上で、おもらしの治らない裕太のトイレトレーニングのため、そして学校で粗相してしまっても周りからわからないようにするためという、とってつけたような大義名分によって、おねしょパンツを穿くことを強いられてしまったのだ。
それでも、おもらしなどせずに、トイレに行って済ませてしまえばいいと、裕太も最初は思った。だが、大義名分とは裏腹に、そこにおもらしをせずに部活へ行こうものなら、どんな目にあわされるか、彼はすぐに思い知らされることとなった。真理江や他の部員たちの、サディスティックな裏の顔を知った今となっては、おねしょパンツにおもらしをしないことなど、考えるだけで恐ろしい。
とはいえ、すべてに対して、素直に従うには、どうしても抵抗感がある。今も、返事をせねばならないこと、そうしなければどんな仕打ちを受けるかわからないことは、重々理解できている。だが、裕太は言葉を発することができなかった。
やがて、真理江から、深いため息が発せられた。そして、どこか諦めたような口調で、裕太へと告げた。
「しょうがないわね。それじゃ、もう、やめちゃいましょうか?」
まさかの言葉に、裕太が真理江を見つめた。よもや、この異常な行為から解放してくれるなど、思ってもいなかったからだ。半ば信じられないまま、それでも微かな希望を感じたその時、彼女がふたたび口を開いた。今までにない、冷たい口調だ。
「佐々木くんは、もう家庭科部の部員じゃないから、とっとと出てってくれる?」
「出てけって……、オレのパンツとズボンは?」
「そんなの知らないわ。もう、私たちには関係ないもの。せっかく、みんなで協力してあげたし、おもらししちゃったことも黙っててあげたのにさ。でも、こんな恩知らずのことなんか、どうでもいいわ。さぁ、邪魔だから、さっさと家庭科室から出てって」
恩知らずもなにも、本来は不必要なおねしょパンツを無理矢理穿かせてきたのは、彼女たちなのだ。だが、豹変した部長の態度と、今までと異なる名字呼びに、その本気さを感じ取った裕太は、そこまで思いが至らない。
「こ、こんな、黄色く染まったおねしょパンツのまま、出てけるわけないだろっ」
いつの間にか責められる立場となり、窮地に陥ったかのように錯覚してしまった裕太は、すっかりと冷静さを失っていた。
そんな様子を見て、真理江は内心では悦に入っていた。自分の手のひらの上で踊る裕太が、おかしくてたまらない。だが、あくまでも冷淡な態度をとり続ける。
「今更、なによ。トイレトレーニングを拒否したのは、佐々木くんなのよ。それなのに、そんなワガママ言って。それとも、お兄ちゃんパンツとズボン、私たちに穿かせろっていうの?」
裕太は、そんなことは言っていない。ただ、返してさえもらえれば、それでいいのだ。穿くことぐらい、自分でできる。だが、このまま廊下に追い出されかねないという恐怖心が先に立ち、思わず頷いてしまった。
「じゃあ、トイレトレーニングを続けたいってことで、いいのね?」
やはり黙って頷く。
「黙ってちゃ、わからないでしょ?」
そんな真理江の問いに、裕太は小さいながら、それでもはっきりと返事をした。もはや拒否権などないことを、彼も認めざるを得なかった。
だが、その瞬間、真理江の雰囲気が変わった。ふたたび、幼児を諭すような、穏やかな口調へと戻っていく。
「裕太くんたらぁ、しょうがないなぁ。最初っから素直にそう言えばよかったのに。そうすれば、お姉ちゃんだって、怒らなくってよかったのよ?」
裕太のことをいたわるような、優しげな態度。だが、内心では、とうとう言質を取り付けたことに、満足感を噛みしめていた。
「それじゃあ、裕太くんのオチンチンのお世話……、今日もしちゃいましょうか? でも、その前に……」
そこで言葉を切ると、にっこりと微笑みかけた。
「まずは、言うことがあるわよね? 『お姉ちゃん、ワガママ言って、ゴメンなさい』って……。いい子の裕太くんなら、ちゃんと言えるでしょ?」
「ま、真理江お姉ちゃん……、そして、お姉ちゃんたち……。ワガママ言って……、ゴメンなさい……」
「裕太くん、エラいわぁ。ちゃんと、ゴメンなさい、できたわね。お姉ちゃん、許してあげる。でもっ……、もうワガママ言っちゃ、ダメよ?」
その言葉に、裕太は頷くしかなかった。
「まずは、そのおねしょパンツを脱がせちゃいましょうね。裕太くんも、いつまでも穿いていたら、気持ち悪いものね」
事もなげにそう言い放った真理江は、裕太の正面へとしゃがみ込んだ。
そのことを見て取った裕太は、これから行われることを完全に理解していた。そしてそれは、過去数日の経験から、避けられないということは、もちろんのこと承知していた。
「や、やめてっ……」
それでも、先ほどの承諾とは裏腹に、本能的にそう言ってしまったのは、しかたないことだろう。だが、それでやめるような真理江では、もちろんない。
やにわに、裕太のおねしょパンツに手をかけると、それを一気に引きずり下ろしてしまう。しかもそれだけではなく、他の女子部員たちが持ち上げた両脚から、すかさず引き抜いてしまった。その際に、裏返しになってしまったために、内側に広がる、表よりも何倍も濃い色をしたオシッコの染みがあからさまになった。
後ろ手に羽交い締めにされ、両脚を持ち上げられたままの屈辱的な格好で、窓から差し込む光を浴びて、裕太のオチンチン周りについたオシッコがきらめいていた。だが、それだけではないことに、気づかない部員たちではなかった。
周囲を漂う栗のような香りと、白い粘液を目の当たりにすれば、それがなんであるかは一目瞭然だった。
「うわぁ、これって精液だよね? ほら、まだ乾いてないから、こんなに糸引いちゃってる」
「ホントだ。裕太くんたら、見かけによらず、おませさんなんだね」
「ねぇねぇ、裕太くん。どうして、白いオシッコなんか出しちゃったの?」
発毛の兆しもない、その先端までをもしっかりと包皮で覆われている、お子ちゃまオチンチン。それが精液まみれになっている様は、少女たちに意外な驚きを与えた。
裕太がおもらしをし、オシッコで濡れそぼったオチンチンなら、すでに見慣れている彼女たちだった。だが、精液をまとわりつかせているそれを目にするのは初めてだった。
「裕太くんって、意外とエッチなんだぁ。ねぇ、どうしてこうなっちゃったの? 自然と出ちゃったのかしら? それとも……、オチンチン、イタズラしちゃったのかなぁ?」
裕太は、もはや半泣き状態だった。あまりの羞恥に、顔を真っ赤にし、うつむいていることしかできない。
「お答えできないの?」
そんな真理江の言葉は、相も変わらず優しげなものだ。本当に、まだおもらしも治らない、幼児に対して話しかける口調。だがそれは、裕太を辱めるために発せられていることは、明らかだった。
それでも、身じろぎひとつできない裕太。しかし、急に後ろ手をひねられた彼は、悲鳴をあげる羽目となる。そして、そのことから、このままでは済まされないことを悟り、真理江の方へと向き直った。
「ちゃ、ちゃんと話すから。お、お姉ちゃん……たち、もう、許して……。ねぇ、お願いだから……、い、痛い……」
裕太の哀願に、拘束が弱められた。それとともに、苦悶の表情が収まる。
「もう、裕太くんたらぁ。お姉ちゃんたちの手を煩わせちゃ、ダメよ。さぁ、教えてちょうだい」
ふたたび、表面的には穏やかな口調で促す真理江。その様子を見て、裕太は、たどたどしく、だがはっきりと話し始めた。
「オ、オレ……、お姉ちゃんたちにされた……、じゃなくて……、し、してもらったことを考えてたら、なんだか不思議な気持ちになって……。だから、六時間目の授業中に……」
裕太が真理江たちからされている行為を、彼自身としては、心から受け入れているつもりはなかった。それは、しぶしぶながら、しかたないこととして受け止めているつもりだった。だが、自分がされていること、置かれている立場を考えると、どこか昂揚とした、不思議な気持ちになってくることにも、なんとなく気づいていた。
そして、授業中にもかかわらず、そんな感情を押しとどめられなくなってしまった裕太は、学生ズボンの上からその部分を撫でさすってしまった。それは、最初はゆっくりと、やがて、周囲に気づかれないよう注意しながらではあるが、激しいものへと変わっていく。
その結果がどうなるか、わからない裕太ではなかった。そして、そんなことをすれば、放課後、こうなることは重々理解できていた。だが、一度火がついてしまった気持ちはどうしても抑えることができず、遂には、穿いているおねしょパンツへと射精をしてしまったのだ。
そんな、口にするのも恥ずかしいことを、裕太は少しずつ打ち明けていく。家庭科室の中で、大勢の先輩たち……、お姉ちゃんたちに精液まみれのオチンチンをさらしたまま。
そんな恥辱に包まれた状況に、裕太の顔は真っ赤に染まる。だが、それは羞恥のためだけではなかった。ふたたび、あの奇妙な興奮が、彼のことを包み込んでいたためだ。
「エラいわ、裕太くん。素直な子は、お姉ちゃん、大好きよ」
裕太の態度に、微笑みの中にも、少しサディスティックな表情を浮かべた真理江は、受け取ったおねしょパンツをかざした。出してまだ間もないだけあって、白濁とした液体は、まだ乾ききっていない。
「裕太くんたら、学校で……、しかも授業中に白いオシッコまでおもらししちゃうなんて……、まだまだおねしょパンツは卒業できないわね」
思春期となり第二次性徴を迎えた証しとも言える射精を、それぐらいの年齢ならば穿くはずもないおねしょパンツにしてしまった。それも、学校で授業中に行ってしまったことを指摘され、裕太は身の置き場がない思いだった。
「ゆ、許して……、もう……、オレ……」
そして、ふたたび発せられる、慈悲を請う言葉。だが、当然ながら、受け入れられるわけもない。
「だから、なにを許すっていうの? お姉ちゃんたちは、裕太くんのために、トイレトレーニングをしてあげてるだけなのよ。しかも、普通のオシッコだけじゃなくて、白いオシッコまでおもらししちゃう裕太くんのために……」
「…………」
「オシッコと白いオシッコをおもらししないように、一生懸命トレーニングして、一日でもはやく、学校でもお兄ちゃんパンツを穿けるように、がんばりましょう。ねっ?」
そうまで言われてしまっては、もはや裕太としても、黙りこくることしかできなかった。